皆さんは、何気なく塗装面を触ってしまったときに、ペンキの塗りたてでもないのに、表面が粉を吹いたようになっていて、それが手に付いた経験はありませんか?
実はこの現象、塗装の表面がまるでチョークの粉のようになっているので、その名も「チョーキング」と呼ばれています。
ご存じの通り、塗装というのは、単に塗装面をカラーリングするためだけに施しているのではありません。
建材を雨や紫外線、熱などから保護するという、とても大切な役割を持っているのです。
先日も、札幌市西区のマンションで、壁や庇が崩落するという事故が発生しましたが、建築士の報告によると、防水や塗装が経年劣化などにより不十分であり、さらに北国特有の寒さが加わり、浸入した水が凍って膨張し、コンクリートを劣化させ崩落に至ったとのことです。
現在ではこのマンションの所有者は変わっておりますが、前所有者は20年にも亘り建物の躯体を建築士を使って調査させる三年に一回の「特殊建築物定期調査」を行っておらす、管理責任が問われています。
念のため、根拠となる条文を記載します。
建築基準法 第12条(報告・検査等)
第6条第1項第一号に掲げる建築物その他政令で定める建築物(国、都道府県及び建築主事を置く市町村の建築物を除く。)で特定行政庁が指定するものの所有者(所有者と管理者が異なる場合においては、管理者。第三項において同じ。)は、当該建築物の敷地、構造及び建築設備について、国土交通省令で定めるところにより、定期に、一級建築士若しくは二級建築士又は国土交通大臣が定める資格を有する者にその状況の調査(当該建築物の敷地及び構造についての損傷、腐食その他の劣化の状況の点検を含み、当該建築物の建築設備についての第三項の検査を除く。)をさせて、その結果を特定行政庁に報告しなければならない。
尚、特定行政庁とは、建築主事を置いている地方公共団体の長のこと、第6条第1項とは、床面積の合計が100平方メートルを超えるものは建築確認を受けなければならないことが書かれています。
塗装工事は一軒家から大型マンションまで様々ありますが、マンションの場合は修繕積立金などを使って多数決で行うことになっているので、当記事では主に一般の家屋の塗装について述べていきたいと思います。
塗装工事はなぜこんなに高いのか
意外に高い足場代
塗装工事の費用は、業者や工法、使う塗料などによってまちまちなのですが、意外に高いのが足場です。
工費を安く上げようと、足場を組まずに作業をするケースもありますし、家の形状により組まないケースもなくはないのですが、質の高い塗装工事には足場を組むことが普通です。
通常足場を組むには、1㎡当たり700~1,000円かかります。一般的な30坪程の家で15万円から20万円程度、全工事費の20%程度を占めます。
脚立や、上から吊るしての作業ももちろん可能ではありますが、しっかり壁面を高圧洗浄で予洗いして、塗料を塗り込むには足場があった方が安心確実です
私が以前勤務していた不動産管理会社でよく行っていたのが、何か他の工事で足場を組むタイミングに合わせて、足場がないと作業できないクラック補修や修理なども併せて行うということを段取りしていました。
それほどにちゃんとした足場を組むにはお金がかかりますし、最近では足場を組んだがために上階に行きやすくなる、つまり防犯面での対策をも取らなければならなくなっています。足場には大きく以下の種類があります。
単管足場
これは丸いパイプを使って、足を乗せる部分は金具で2本を抱き合わせるもので、作業するにはやや不安定であり、最近ほとんど見かけなくなりました。
単管ブラケット足場
ものは単管足場と同じですが、ブラケットという金具を用いて足場板を載せるので、単管足場に比べてはるかに安定した足場となります。
ただし建てつけが悪いと揺れを生じたり、また足場を組むのに基本的にボルト締めのため時間がかかるという難点があります。
ビケ(クサビ)足場
上記のブラケットに楔形の金具を用いているもので、組み立てることが比較的容易であり、足場面積が広く、現在では主流となっているものです。
ピンからキリまである塗料
塗料は様々ありますが、せっかく高い足場代を出して5年程度しか持たない塗料を使ったのでは効率が悪く、結局は高くついてしまいます。
塗料は、いわゆる「持ち」に比例して値段が高くなります。
その昔は主流だったアクリル系塗料やウレタン系塗料は耐用年数が短く、最近ではあまり使われなくなりました。
現在主流となっている塗料は、シリコン合成樹脂塗料と、ラジカル塗料ということになるでしょう。
シリコン合成樹脂塗料
現在、戸建て住宅の塗装工事では7~8割が、このシリコン合成樹脂塗料を使用していると言います。
各社とも耐久試験を行っていますが、新商品の場合にはなかなか耐久性は分からないものです。
しかしシリコン樹脂耐熱塗料は昭和28年に開発されたもので、その耐久性は折り紙付きであり、値段も2,300~3,000円(㎡3回塗り)と手頃で、耐用年数も12~15年あり、コストパフォーマンスが高いことが理由でしょう。
ただし、シリコン合成樹脂塗料もまたピンキリで、同じシリコン合成樹脂塗料なら安くてもいい、というものではありません。
ラジカル塗料
ラジカル塗料とは、塗料の中の白色顔料が太陽光を受けるとラジカルという物質を発生させ、これが塗膜の劣化をもたらすため、ラジカルの発生を抑えるハルスという物質を入れます。
そのことによって、劣化を防ぐというもので、別名「ハイブリッド塗料」とも言われています。
耐用年数は、12~15年で、価格は2,500~3,000円(㎡3回塗り)です。
今注目されているフッ素塗料
大型物件や橋梁で使われて、今注目を浴びているのが「フッ素塗料」です。
これは塗料の耐久性にとって重要な合成樹脂に、蛍石を原料としたフッ素を混入したもので、東京スカイツリーや明石海峡大橋、レインボーブリッジなどでも使われています。
フッ素塗料は、15~20年の長寿命ですが、3,800~4,800円と高いため、一般的な家屋に塗装するには贅沢かもしれませんが、例えば壁面はシリコン合成樹脂塗料やラジカル塗料を使い、太陽光をまともに受ける屋根部分にはフッ素塗料を使うという組み合わせは一考の価値があるのではないでしょうか。
他にも注目されている塗料が!
テレビでも一時期CMが流れて有名になった塗料に「光触媒」という塗料があります。
これは、塗料の中の白色顔料の原料である酸化チタンが太陽光を浴びると活性酸素を生み出して汚れを分解し、雨が降ると汚れを洗い流すというもので、他にも遮熱機能が高く、空気浄化作用もあります。
最も一般的に使われているもので、4,200~5,000円(㎡3回塗り)ですが、訪問販売などで「新しい技術だから。」と一万円以上に吹っ掛けてくる悪質業者がいます。
こういった場合には断る勇気を持ちましょう。
余談ですが、工事は基本的に請負契約ですから、特別の事情がない限り、工事が終わるまでお金を払う必要はありません。
もしも悪質業者に引っ掛かりそうになったら、まずはすぐに身内の方に相談してください。
高い代わりに夢のような塗料に思えますが、日当たりの悪い場所や雨が降らない場合には効果は期待できませんし、現在はまだ壁面用の製品しかなく、屋根用のものは発売されておりません。
まだ開発途上なのかもしれません。
塗料は他にも「無機塗料」というものもあります。
外壁塗装工事をやる時期は?
一般的に、塗装工事は10年に一度だと言われていますが、一概にそうとも言えません。
家屋の塗装の劣化は、家のある環境によって大きく異なるからです。
ただ、冒頭部分で述べた通り、「チョーキング現象」など目に見える劣化があります。
どのような状態となってきたら塗装工事を行えばよいのでしょうか。
① 塗装のチョーキングや色褪せ
② 塗装の部分的な剥がれ、膨れ
一部でも剥がれてくると、そこから雨水などが浸入して剥離が進んでしまいますし、膨れは塗膜の密着が悪くなっている証拠です。
③ コーキングの硬化、割れ
そもそもコーキングとは、建材の熱などによる伸縮を原因とした壁面などのひび割れを防ぐためと、雨水の浸入を防ぐため設けられているもので、コーキングが劣化してくると固くなってひび割れを起こしてしまいます。
④ 外壁の部分的なひび割れ
他には、湿気などによる藻やカビの発生や、最近流行りのサイディング壁(パネル状に成型した金属製や合板製などの板状外装材)では、つなぎ目部分のコーキングが劣化して、そこから雨水などが浸入します。
どのような工程で作業するのか?
工事を始める前に近隣住民への挨拶
工事をするわけですから、外壁工事とは言っても足場を組んだり、高圧洗浄機で壁面を洗浄したりする時には騒音を発することもありますし、塗料の臭気の問題もあります。
最近の工事業者は、事前の説明や挨拶をしてくれることは当たり前になってきてはいますが、それでも親しき中にも礼儀ありで、自ら挨拶をしておくことで、その後のもめごとを抑止する効果があります。
それでは目安として、標準的なモデルケースをご紹介します。
① 足場組み、足場へのメッシュシートの装着など(1日目)
このメッシュシートというのは、塗料が飛散しないようにする大切なものです。
多くの足場で装着していますが、このシートがあるために外から見えにいため、泥棒が発生する危険があります。
これを防止するため、最近では透過性の高い黒いメッシュシートや防犯カメラの設置などがなされます。
② 高圧洗浄機による塗装面の洗浄と乾燥(二日目)
よく接着剤や膏薬などを使用するときに、密着をよくするために表面を洗ったり拭いたりして、それをよく乾かしてから使いますよね。
塗装工事についても全く同じことが言えます。
この作業が極めて重要であることは皆さんお察しの通りです。
そして十分に乾燥させます。乾燥期間が短いと乾燥が不十分だったり、逆に長いと汚れの再付着が発生します。
天候にもよるのですが、2~3日は乾燥時間をおきましょう。
③ コーキング補修などの下地処理(五日目)
マンションなどで、小さなヒビ割れ部分から茶色いシミが下に向かって流れているのを見かけた方はいませんか?
これは壁面などにある鉄筋などの金属が、何らかの原因で雨水が浸入しこれによって錆び、錆びた金属が膨張するため内部から壁面を押してできるもので、表面のヒビをクラック、壁が一部剥がれ落ちたものを「爆裂」と呼びます。
このまま塗装するわけにはいかないので、コーキング補修や剥がれた部分にはパテ詰めなどを行います。
④ 各部の養生作業
DIYをされたことがある方ならお分かりのことと思いますが、家屋の必要部分以外には塗料を付けたくない、あるいは作業効率を高めたい理由で、シートやマスキングテープで覆う作業です。
また、塗装が飛散しそうな場所にある、例えば自動車、自転車、バイク、物置小屋などできる限り覆っておきます。
⑤ 下塗り(六日目)
皆さんも一度は見たことがあると思うのですが、橋や陸橋などの塗装工事の際、いきなりペンキを塗るのではなくて、不思議なつやのない赤い塗料を下地に塗っています。
これは「錆止め塗料」というもので、以前は原料である鉛丹や亜酸化鉛などが赤いため、このイメージがあるのですが、現在では赤いもの以外にも様々開発されています。
これと同じように、家屋では「シーラー」というものを塗布します。
壁面の場合、材質によっては染み込みの激しいものもあり、シーラーが染み込んで中で固まり塗料を塗りやすくします。
クラックなどの補修箇所には「フィラー」という下塗り塗料も使用したり充填します。
⑥ 中塗り(七日目)
さらに密着を確実にするため、中塗り剤を使う場合もありますが、たいていは上塗り塗料と同じものです。
塗装工事は一回上に塗ってしまうと確認できないので、手抜き工事をしてもよく分からないのですが、これが年月が経ってくると如実に現れてくるのです。
めんどくさがらずに必ず作業をよく目視して、場合によっては中塗りに限らず写真を撮っておきましょう。
良心的な業者なら、必ず作業報告書には写真を添付しますが、自らも撮影しておくことで、いい意味でのプレッシャーになります。
一般に乾燥させるため、塗布後一日はおきます。
⑦ 上塗り(八日目)
中塗りと上塗りの塗料には、微妙に色を変えていることがあります。
これは同じものではどうしても見えにくいために塗りムラが生じるため、これを防止するためにあえてそうしているのです。
大手の場合は必ずといっていいほど変えてくれます。
⑧ 屋根塗装(九日目~十一日目)
屋根は壁面以上に過酷な環境下に置かれる場所で、この作業に手抜きをしたら意味がないといってもいい位とても大切な場所です。
ここでも同じように、下塗り、中塗り、上塗りを行います。また、雨どいなどもこのときに塗装を行うことが多いようですが、順番が決まっているわけではありません。
⑨ 養生撤去、確認、手直し(十二日目)
塗装工事は頻繁に行うものではありません。しかも決して安いものではありません。
全体的な塗りムラ以外にも、養生をはがしてみると、塗料の流れ込みや逆に剥がれ、そして意外に多いのが塗料の飛散などによる不要部分への付着です。
これらは良心的な業者であっても起きないことはないくらいのもので、確認して手直ししてもらいましょう。
また、足場撤去前でないと手直しできない、またはしにくい箇所がありますので、入念にチェックしましょう。
ちなみに塗装工事を含めたリフォーム工事について、法律としては瑕疵担保責任として、民法634条から640条に規定されています。
「瑕疵(かし)」とは欠点や欠陥のことで、「担保責任」とは業者が負うべき責任とお考え下さい。
民法634条(請負人の担保責任)1項
仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。
民法637条(請負人の担保責任の存続期間)1項
前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
⑩ 足場の解体、飛散防止シートの撤去、清掃など(十三日目)
シートが被ったままだとよく分からなかった家屋の全体像が、撤去とともに明らかになります。
見えなかった瑕疵などを発見した場合には、遠慮なく業者に手直しを指示してください。
⑪ 引き渡し、工事完了報告と挨拶(十四日目)
塗装工事まとめ
ざっと挙げただけでもこれくらいの期間と費用がかかります。
私がざっくりと費用を聞かれたときにやっていたのは、人工(にんく)計算というもので、だいたい何日、何人くらいかかるかでおおよその見積もりをしていました。
それは、工事をする場合、一番かかるのが人件費だからです。
今回は代表例として14日かかるパターンを載せましたが、天候不順などにより工期が伸びることも予想されます。
その場合は職人さんを抱えている工務店さんもお金を払わなければならないのです。
余裕を持った工事計画、資金計画が必要だということを最後に申し上げておきます。